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じじらぎ

  

ピカピカのⅠ年生

入学式について、「懐かしい」というコメントを内地に住む“熊ちゃん”からいただいた。なるほど、若い人たちにとっては入学式の思い出が鮮明であって当たり前であろう。

小宝島分校の入学式を見ながら、自分のときはどうだったのか思いだそうとした。手がかりが何もない。ほぼ空白。

わずかに、学校には知らない子どもがいっぱい居たという記憶がある。それも映像的な鮮明さはなく、高ぶった気分があったような…という程度。

児童総数2000余、1学年10学級。間違えないで、どうやって自分の教室に入ったのか? 自分の教室が見つからなければどうしようと心配した思いの痕跡のようなものが残っている。

ということは、母親が付き添っていなかった可能性がある。親がついてこられなくてもおかしくない事情が当時はあった。そんな時は3歳上の姉が母親代わりをした。

年寄りの愚痴めいた昔語りだけれども、若い世代にぜひ知っておいてもらいたいことがある。日本は無謀な戦争を世界に仕掛けて、徹底的にたたきのめされた。

そのくらいのことは承知してるヨ…などと言わないでほしい。それで、どうだったか…ということを語りたい。

国家が無暗に増産を奨励して、あげくに戦争に負けた。そのままでは使い物にならない半端な“軍需物資”の在庫を大量に抱え込む形になった。

食糧や燃料などの隠匿可能な物資であれば横流しして儲けることができた。しかし、戦争に負けたとたんに、穀つぶしと化した“軍需物資”もあった。子どもである。

親たちにとって子どもが可愛くないはずはない。しかし、暮らしは逼迫していた。食うものがない。タッモンが無かれば、タッモンも無か…という状況。

……タッモンとは焚くものの訛り、前のタッモンは薪、後者は鍋に入れて焚くべき材料のこと。逆だったかもしれないが、同じこと。貧窮極まれる状況に変わりはない。

戦勝国のソビエトロシアでさえ、膨大な数の餓死者を出した時代。戦後まもなくの新入生は飢え死にこそ免れたが、次なる難題に直面した。衛生である。

とにかく汚かった。不衛生、不潔の見本のような餓鬼が白昼の公道を徘徊し、がれきと錆びた釘が埋まった焼け跡の空き地を飛び回っていた。

自身の体験を暴露すれば、目を覚ましても朝の風景をすぐには拝めなかった。膿とも眼やにともつかぬものがこびりついて瞼(まぶた) が封印されていたのである。

トラホームをやっと治したら、今度は訳のわからない結膜炎のようのものをもらって帰った。休む間もなく眼瞼再封鎖。 従兄は風眼にかかり、片目だけ牛乳瓶の底のような眼鏡を死ぬまで手放せなかった。

体内には虫がいた。検便の結果、回虫だけでなくギョウ虫までいたことがある。これは良い方。南国名物のフィラリアまでもっている者がいた。さらにご丁寧なのはサナダ虫まで飼っていた。

栄養不足でみんな青洟をたらしていた。たらしたままでは具合が悪いので袖口で拭うと、やがて半端に乾いたものがピカピカと光沢を帯びる。……ピカピカの1年生。

ピカピカは新入生だけではなかった。転勤族の金鉱山の子ども除いて上級生も全員ピカピカ。栄養不良で皮膚病のかさぶたを北朝鮮の高官のベタ金勲章のようあちこち張り付けた子もいた。

不思議なのは、そんな衛生状態の子どもがみんな丈夫だったことである。校長先生のありがたい訓示が果てしなく続いても途中で卒倒する子はいなかった。

話があと先になったが、12年後には取り壊すことになるすし詰め教室用の校舎は私が入学した年に建てられた。講堂や体育館まではとても手が回らない。全校朝礼は炎天下の校庭に裸足の子2000人を整列させて厳かに執り行われた。

それで倒れる子がいなかった理由については、いずれ考えてみたい。特筆すべきことは私が入学して4年後に母校が文部大臣表彰を受けたことである。栄えある「学校保健優良校」。

駆虫薬のマクイ(海人草) を何度も飲まされた成果があらわれたのである。海藻類は嫌いではないが、マクイはなんとも言えない味がした。回虫が大いに迷惑して、居心地の良かった腸から脱出を決意する気持ちも分かる気がした。

ともかく、ちょっとだけまともになって、校長先生が天皇陛下に拝謁を許されるほどの大手柄だった。それほどまでに“どん底”状態がひどかったということであろう。

自身では綺麗になったという実感はない。ただ、4,5年後に入ってきた、いわゆる団塊の世代が小ざっぱりした身なりをしているのにはびっくりした。後輩全員が金持ちの国から山海留学に来たという感じ。大げさな言い方かもしれないが人種まで違うような気がした。

日本という国が変わったのである。本当に豊かになり、ものに不自由しないことが当たり前になった。
それで、今どうなっているか…という話をするのが、実は今日の本題だった。

しかし、牛のよだれのように話はだらだらと尾をひいて、本番に入る前に書く方もくたびれてしまった。読む方はもっとダレているはずである。これ以上の長話は迷惑行為。区分けして続きはいずれ。

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