じじらぎ

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町医者

昨日、かかりつけのお医者さんに退院の報告に行った。年末年始の長期休診を控えて、どことなく仕事おさめの雰囲気。退職した昔の看護婦さんも遊びに来ていて、爺ぃがしぶとく生きているのを喜んでくれた。




この医院の院長は2代目である。診療所は爺が新卒の新入社員として勤めた会社と同じ町内にあって、何か訳のわからないものを食って蕁麻疹をこしらえて駆け込んだころ、2代目は小学校に上がったばかりだったはずである。

町医者と呼ぶにはまだ年齢が足りない。しかし、先代ほどの酒好きではなく、不養生もほどほどにしているはずなのに、どことなく風格が出てきた。爺ぃが爺になるはずである。


しかし、2代目に偉そうな名医の雰囲気はない。そこが良い。この点では先代の良いところを見事に継いでおり、あと少しで先代の悠揚せまらざる名町医者の域に達しそうな気配。

話の勢いで2代目を餓鬼扱いしたような雲行きになったが、それほどに先代は偉かった。


先代は軍医あがりだった。軍医といえば荒っぽい外科を連想するけれども、復員して掲げた看板は内科、皮膚科、性病科。

場所も場所。今は問屋や町工場などが軒をつらねる典型的な下町の風情で昔の面影はないが、戦後まもなくから昭和30年代初めごろまでは娼婦たちも暮らしていた埋め立ての新地だった。


こんなところに普通の若者は単身で飛び込むことはしない。金儲けのためでないことは、彼の仕事ぶり暮らしぶりを見れば分かる。

底辺の患者をいやというほど診ているはずなのに、警察医を引き受けて大変な数の変死体と向き合った。暇でもないのに離島医療にも協力を惜しまなかった。


患者の立場では少し物足りないような気分が残った。蕁麻疹のために脹れあがった顔で駆け込むと、「あゝ、また出ましたか」と、医者どんの方が情けない顔になる。

しかし、そのひと声を聞いただけで、ホッとするわけではないけれども、気持ちのおさまりがつくようなところがあった。要するに、ジタバタしてもしようがないのである。頼りない医者どんが情けない顔になる、それを見れば目的の大半を達したような…。


一度、アレルギー源を究明してほしい、とねじ込んだことがあった。やはり、のれんに腕押し。 

検査をすれば分かります、という。しかし、原因物質が分かったからといって、どうということもない…と言葉を継ぐ。 まるでやる気がない。

しつこく食い下がると、原因がわかっても今までどおり対症療法でいくほかない。それと、原因が別のものになったり、前触れもなく治ったりするというのである。


この人の職業倫理には、生きている患者を無暗にいじり回さないということが基本にあったのかもしれない。いつもニコニコ笑っているだけ。患者の体に触るのも、遠慮しているのか? 面倒くさがっているのか?


外国まで無理な船旅をして帰り、急に足がいたくなったときの先代の困惑した顔は忘れない。他人が心底から同情してくれている顔を生まれて初めて見た。

若いのに血圧が高く、食事療法のつもりで大豆製品ばかり偏食した。1カ月ほど旅に出るときは大豆の煎ったのを大量に用意し、酒のつまみだけでなく口さみしいときにかじった。それで尿酸値が急上昇したのである。

「食べるものがなくなりましたネ」と嘆息する。高血圧を防止する食品が尿酸値をあげてしまう。食事を楽しむ自由が私の人生から奪われたのである。


このころQОL(クウォリティ・オブ・ライフ) という考え方はまだ認知されていない。今にして思うと、先代には後々の私が心臓病や癌で苦しむ姿まではっきりと見えていたのかもしれない。

まさに先代が心配していたとおりのことになった。一方で、アレルギーの方はいつのまにかウソのように治っていた。その間に、あんなにも血色がよく元気そうだった先代は亡くなった。働き過ぎと酒好きが寿命を縮めたに違いない。


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COMMENT
ひろさんも良いお年を…
終わり良ければ、すべて良し。
お元気で…。
こんにちは、じじさん。
足腰の具合はいかがですか?
素晴らしい温泉があるから大丈夫かな?
今年は楽しい記事をありがとうございました。
来年もいい一年でありますように。
よいお年を、、、

今日も好き日に…
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