じじらぎ

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抜港

∇…021     鹿児島からの下り便は抜港した。船は小宝港の湾口をのぞいて、やがて面舵、右に船首を向けて真っ直ぐに宝島に下った。
この便には、ずっと前に宿を予約した後に予約確認の電話を入れ、船に乗る直前にも「今から行きます」 と連絡してくれた人が乗っている。後ほど、宝島から電話があった。あす朝の戻り便で必ず来ますという。

姓しか知らない。旅の目的も出発点がどこだったのかも聞いていない。ただ、小宝島に行きたいという気持ちだけが伝わってきている。女将は素性不明の声を聞いて妙に懐かしそうな口ぶり。


宝島では野営するという。なるほど旅慣れた人らしい。


全国に3つだけ、役場が管轄区域にない自治体がある。鹿児島県の十島村、三島村、それに沖縄県の竹富町。竹富島については作家の司馬遼太郎氏が『沖縄・先島への道--街道をゆく6--』 で紹介している。

実は32年前に初版が出された古い資料で、今は様子が変わっていて当然だろう。しかし、現在の十島村・七島はこの本に記録された当時の竹富島よりも遅れているという感じがあって、1世代前の紀行文を昨日の話のように錯覚しながら読み返している。


この本によると竹富島では島外大手資本の旅館ホテルへの進出を規制した。地場の民宿など観光産業を保護するためである。

トカラで民宿稼業を手伝っている立場からすると、凄いことだと思う。地場の民宿がそれだけ商売に自信をもっており、自治体ぐるみで支援していることを物語っている。


去年の皆既日食のとき十島村は“世紀の天体ショー” の旅行企画を旅行代理店に丸投げした。その結果、唯一その企画に乗らなかった小宝島の民宿パパラギは年来のなじみ客を受け入れることができなかった。この時期の親族の里帰りも思うようにできなかった。


唯一の足である村営船「フェリーとしま」 が旅行代理店と村におさえられてしまったためである。この結果、夏のかきいれどきに開店休業になった。

その後の動きを見ると、これがきっかけになって村のいう“リピーター” が増え、村おこしができた…ということにはなっていない。

結果的には“リピーター” を受け入れる態勢も条件もないことをあらためて確認するだけのことになった。


“リピーター” が増えても対応できない。そして、幸いなことに村が期待するような“リピーター” は増えなかった。


だいたい、最低限の想像力と理解力があって事情がいくらかで見える人は気安く来ない。秘境めぐりのマニアだって、2度とは来ないだろう。


たとえ、探検気分でくりかえし来られても気色が悪いだけのことだ。個人のマニアだけでなく、テレビなどの取材と称する人たちにも変なのがいて、ご要望、ご期待にこたえていくと、行き着くところは土人の真似でもやってみせる、ということになるのかもしれない。



トカラの名はすでに十分すぎるほど売れている。 しかし、知名度に相応する美質があるのかどうか? うかうか虚名だけが膨れ上がっていくのでなければいいのだが…。



迷信をも含む素朴な信仰、不思議な手順を要求する儀礼、資源を浪費しないささやかな生産技術、自然と深いかかわりをもった生活文化。自然の厳しさ、それと裏腹の美しさ…。

これら、トカラにかつてあった特質がいま、どのていど残されているのか分からない。それが観光資源として有望ですぐれているかどうかも分からない。

かりに観光資源として使えるものであるとしても、大量の需要にこたえ大量消費されうる性質のものだろうか? 島のほんとうの美質は、個々の人の研ぎ澄まされた感性によってたまにしか見えてこないのではないか…。


これらは地理的文化的孤立、近代的な産業基盤の欠如という負の面と分かちがたく絡み合っている。観光施設業者にとっては、都合のいい人数の客を都合よく受け入れられる条件とは言えない。

週2便の船便も必ず来るとは限らない。飲用水も含めて資材、食材のほとんどを島外から運び込まなければならない…。スケール・メリットでコストが削減できる…などという幸せな状況はない。

というわけで、お客さん一人ひとりの顔を見ながら細々とやっていく。 少人数を相手にするということで、のべつ舞い込む土壇場でのキャンセルによる損失を最小限に食い止めることもできる。“リピーター” を増やすなどという野心をもてる条件がない。


敢えて繰り返す。去年、皆既日食のとき小宝島の偏屈宿は、十何年来のごく少数のリピーターを受け入れられなかった。トカラの名を売り、リピーターを増やす…という村の方針によって足が奪われたのである。




さて、竹富島…。

司馬氏によると、この島では島外資本の宿泊施設の参入を認めないだけでなく、島内でのキャンプも禁止しているという。これも地元の民宿の保護のためだが、なんとも徹底している。

私見を言わせてもらえば、トカラではそこまでやらない方がいいと思う。と言うより、そこまでやれるほどの自信と気構えが宿の方にあるのかどうか確信をもてない。

とにかく、今の段階では島に来てもらうだけでも有り難い。



野営して疲れたら宿をとる…という旅の仕方は若いころよくやった。安上がりという以上の利点があった。

今の季節だと一人用のテントとシュラフカバーがあれば寒いことはない。梅雨時でも、小宝あたりではのべつ降りっぱなしではないし、快適に過ごせる手立てはある。

ただし、だれにでも勧められるというものでもない。地場産業の開発・島おこしの類もいっしょで、自然を荒さない、自然を奪い尽くさない、地元の人の暮らしぶりを邪魔しないという心得が不可欠。これが簡単なようにみえて難しい。











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